かいちょうの日記 Vol.1 持ち上げられて気持ちよくなるドヤ顔センパイ
ある日、私は学生ラウンジで昼食をとっていた。もちろん、1人で。すると男2人組が私の近くに座った。座ったなと確認しつつも最初は特に気にもせずにいた。すると少ししてから
いやーミスチルのライブいきてぇー
という声がした。どうやら先ほどの2人組のうちの1人のようだ。それを聞いたもう1人の男が
ミスチルとか聞くんですね!
と言った。おそらく彼らは先輩後輩の関係なのだろう。それから彼らの会話を聞いてみることにした。
先輩:まぁね。他にもサザンオールスターズとかも聴くかなぁ。
後輩:へーすごいっすね。結構昔の曲とかをよく聞かれるんですね。珍しいですね!
先輩:まぁね
出ました。これが人と違う感性であることをアピールし、ここぞとばかりにドヤ顔する系大学生か。確かにこの手の話題はドヤ顔をするにはうってつけだもんな。
私は一応先輩の顔を確認した。心なしか気持ちよくなっている顔に見えた。しかしまだこの時点ではドヤ顔大学生であると断定はできない。もっと分かりやすい根拠が必要だ…
しかしそれにしてもこの後輩、太鼓の持ち方ができている。どこで習った?進研ゼミか?
その後しばらくは目立った会話は無かったのだが、気がつけば話は変わり、先輩の弟の受験の話になっていた。
先輩:俺の弟さ、今受験シーズンやねん。あいつ全然勉強せんからさ、いつもこう言ってるねん。「俺に勝ちたいんやろ?」って。そうやって弟の闘争心煽ってるねん(ドヤ)
この時すでに私は確信していた。これはドヤ顔大学生であるということを。
先輩は続けた。
ほら、受験ってさ、1つの物事に対する集中力とか忍耐力とかを図られてるようなもんやん?こういう力ってどの業界に就職しても絶対に必要やん?(ドヤ)
おっとドヤ顔に拍車がかかってきたぞ。放っておいたら止まらなくなるぞ。てかその話をドヤ顔の象徴でもある野球の素振りをしながらするのやめろ。外のカットボール詰まらせとけ。
結局この太鼓持ち後輩が生み出してしまったドヤ顔モンスターはもう止まることはなかった。
後輩:先輩は単位はとったんですか?
先輩:俺、けっこう落としてるよ(笑)けどさ、大学なんか出なくてもさ、能力があれば会社は必要としてくれるわけ。大学云々で左右されるようなら所詮その程度の能力やったってことやねん。そう思わん?(ドヤ)
先輩:じゃあ聞くけど、スティーブ・ジョブズも学歴を気にしたことがありますか?って話。(渾身のドヤ顔)
はい現行犯!ドヤ顔罪で署までご同行願います!てかもうお腹痛いっす!スティーブ・ジョブズ×ドヤ顔は笑いしか産まないから!
もうわかったわかった。お前がスティーブ・ジョブズだ。お前こそ異端児だ。すごいぞすごいぞ。その代わりお前は今着てるリクルートスーツを一生着続けろよ?服選んでる時間が無駄なんだろ?
しかし私は思った。もしかして、学生生活を偏見で構成してきた私が悪いのか?と。
こんなひねくれた視点を持っているのは私だけなのか?世間一般の大学生はスティーブ・ジョブズの名を借りてドヤ顔してる人を見て「たしかに、スティーブもそうだったもんね!納得だね!」と純粋に捉えることができるのか?「その考えも一理あるけど私はこう思うな」と、しっかりと話を吟味した上で冷静にその話を捉えることができるのか?
私自身、偏見で生きてきたことは自覚している。私は世間とズレている。そうだ、私が間違っているんだ。すいません先輩。今まで散々ドヤ顔だと揶揄してきたこと、深く反省します。あなたは冤罪でした。釈放します。
後輩:あ、確かに!スティーブ・ジョブズは大学中退したらしいですもんね!なるほどぉ〜
太鼓持ち罪で逮捕します。署までご同行願います。